1箇月単位の変形労働時間制について



はじめに

1947年に制定された労働基準法は、1987年「第32条(労働時間法制)」を中心として40年ぶりに「抜本的に改正」され、従来1種類しかなかった「変形労働時間制」を3種類に増やし、かつフレックスタイム制を新設して、法定労働時間の規制を弾力化した。これは、第三次産業の増大や経済のサービス化(24時間型社会)の中で、事業活動や労働態様の変化に対応して労働時間の枠組みを柔軟化すること、さらにその後「1年単位の変形労働時間制」が追加された。
従来の労働基準法では、第32条2項で「使用者は、就業規則その他により、4週間を平均し、1週間の労働時間が48時間を超えない定めをした場合…」との定めがあり、この定めの適用を行っていた職種・業種としては、化学薬品関係や国鉄の業務のような24時間操業の業種・職種に限られていました。
この「4週間単位の変形労働時間制(変形8時間制)が根拠となって国鉄時代の動力車乗務員勤務には「内達1号(1949年制定)」により勤務の体系が作られていました。

 

JR各社で導入

国鉄が「分割・民営化」されたその年に法制化された「1箇月単位の変形労働時間制」をJR各社は非現業や常例日勤勤務種別を含む総ての職種に適用し、就業規則において「業務の都合により指定した勤務を変更する」と労働者をどのようにでも働かせることが出来るような制度として導入しました。
しかし、前述したように、特定な業種や職種に限られていた労働時間制であるが故に、「1箇月単位の変形労働時間制」を適用する場合には、下記に示すように労働者保護の観点を重視した、労働省の統一見解として定着している様々な規制措置があります。

 

各種の規制措置(労働省の統一見解)

1. 就業規則などにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都 合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない。
各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も具体的に定める必要 がある。
  (昭和63.1.1.平成3.1.1.基発1号)

2. 業務の実態から、月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続きなどを定めておき、それに従って各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定すること。
  (昭和63.3.14.基発150号)

3. 1箇月単位の変形労働時間制は、1週40時間、1日8時間労働制という原則の 例外規程ですが、これは、1箇月労働した後に通算して結果として1週間当たり4 0時間になっていれば良いという制度ではない。
なぜなら、労働者は特定の日や週の労働時間が不明確となり、日常生活の設計が 出来ないほか、1箇月の法定労働時間の範囲内であれば、特定の日や週にいくら長 く労働しても割増賃金が支払われないという不利益を被ることになる。
従って、変形期間の途中で労働時間を変更することは、1箇月単位の変形労働時 間制を採用する場合の要件を欠くことになり、認められません。
  (労働省監修・労働実務相談、1問1答)

4. すでに確定している「特定」後の変更については、業務上の必要に仮託しての恣意的な変更が許されるならば、この制度の合理性を支えていた条件が空洞化する。
また、欠勤者の代勤などのため、使用者が任意に労働時間を変更するがごとき場 合には、法第32条の2は適用されない。
労働者の同意なしの一方的変更は、法的に許されないという原則こそが貫徹され るべきであり、労働時間法制度の構造上は、一度始終業時刻を「特定」した後は、 時間外労働によるほかはないことになる。
(労働省監修・萬井 龍谷大学教授)

 

勝手に「変更規定」を定めてもダメ

以上のように「1箇月単位の変形労働時間制」を採用する場合には、変形期間開始前までに、変形期間における各日・各週の始終業時刻を含め、労働時間を具体的に「特定」する事が必要であり、「特定」した勤務は、変形期間開始後に変更することは許されず、業務上の必要により変更した場合、「特定」した労働時間を超えた場合は、割増賃金(超過勤務手当)の支払いが義務づけられて居り、それ以外は法の趣旨に照らして違法と言えるものです。 
これは、変形労働を行うことによる、肉体的・精神的苦痛、疲労度や生活の不規則性などの弊害から労働者を保護することを目的としていることから、「特定」の要件を厳格に貫くべきであります。
従って、JR貨物やJR東日本、JR西日本に対し、対応する労働基準局(労働基準監督署)から「指導表」や「是正勧告」が発せられたことは、労働省の統一見解として定着した結論であります。

JR東日本は、「一旦指定した勤務及び休日等の取り扱いについて」と「特定後の変更」を行う場合の理由を定め、その理由であれば変更しても超過勤務手当の支払いから免れる規定を設けました。また、東京地方裁判所では、JR東日本に対し、変更条項を定めてあれば違法とは言えないとの判決(2000.4.27)を示しました。

しかし、使用者側が、就業規則に「業務上やむを得ない緊急の事由が生じたときは、所定労働時間の一部または休日を変更することができる」とのエスケープ条項を置くよう日経連が提唱しているが、これは法(32条2項)が要求する「特定性」を欠くこととなり違法である。かかる場合は、時間外労働として対処すべきである。
(労働基準法実務全書・労働旬報社)

このように、就業規則等でエスケープ条項を定めることも、違法として確定していることです。厚生労働省・労働基準監督署は、東京地裁判決以降も「特定」後の変更について、就業規則に「変更規定」を定めてあるとか、特定の労働組合とその「変更規定」について合意しているからと言って、時間外労働にあたる部分の割増賃金を支払わなくて良くなることにはならない、と原則的な態度は変えていません。
JR各社において、常例日勤勤務などについては、変形労働時間制を適用する理由も必要性もないことから、法第32条1項の定形勤務に是正させることが必要です。